②人の「つながり方」が価値を生む(1:橋渡し型)

ソーシャルネットワーク研究と職場のハピネス②

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前回は社会資本の概念についてご説明しました。
では、抽象化した「人のつながり方の構造」にはどのようなパターンがあるのでしょうか。
 
集団の最小人数は3人です。
この3人のつながり方で重要なのは次の2通りです。V字の形につながっている場合(橋渡し型)、三角形になっている場合(結束型)です。

<橋渡し>型のメリット (構造的空隙を持つV字の関係)

橋渡し型のつながりとは、A、B、Cの3人がいるときにAさんは残りの両方と繋がっているが、BさんとCさんはつながっていない状態です。図にするとV字のようになります。
 
このつながり方は、誰にどのようなメリットをもたらすでしょうか?

これがもたらすメリットを知るためには、前提として<橋渡し>型ネットワークが重視しているものを理解する必要があります。
 
それは、情報やアイデアの伝播です。人と人が「つながっている」という状態は、この間を情報やアイデアが流れるということです。
 
この観点に立つと、Aさんの位置が最も得をすることが分かります。
Aさんは、BさんとCさんの両方から情報を入手でき(情報利益)、そして、BさんとCさんに流す情報をコントロールできます(統制利益)。
 
こういった仲介ポジションを活かすとビジネスができるわけです。こうした仲介ビジネスは大昔からなされており、商売の基本と言えます(入山 2019)。
 
ここで、BさんとCさんの間につながりが欠けていることを、Aさんの「構造的空隙」と呼びます(Burt 1992)。数々の研究によって「構造的空隙」によってAさんの立ち位置にメリットが生まれることが実証されています。

構造的空隙を豊富に持つ人の特徴

  • 「人と人とが社会的につながり合うと、メリットが生まれる」という概念
  • 「個人だけでなく、集団全体で利用できる資本」

このように、構造的空隙を豊富に持つ人はビジネスにおいて能力が高いと評価されていることが示されています。
これはなぜでしょうか?
あえてBさんとCさんがつながらないようにAさんがコントロールしているのでしょうか?いいえ、そうとは限りません。

先ほどは最小のモデルとして3人の関係で図示しましたが、実際の職場には多くの人がいます。BさんとCさんが別の部署であったり、異なる職種である場合、2人の間につながりがないのは自然なことです。このような、異色な人をつなぐことのできているAさんは、多くの情報が集まり、人から頼りにされやすく、結果として高い評価を得るのだと解釈できます。

ではAさんのようになるには多くの人と密な関係性を築かないといけないのかというと、そうとは限りません。
弱いつながり」が鍵になるという研究もあります(Granovetter 1973)。
弱いつながりとは、接触回数が少ない、ちょっとした顔見知り程度という意味です。例えばAさんとCさんの間が「弱いつながり」である場合でも、Bさんが知らない情報を「ちょっとCさんに聞いてみようか」とAさんが紹介することができるため、Aさんは十分に新しい価値をもたらすことができるのです。

集団間の橋渡しについて次の記事で詳しく説明します。
→次へ(③人の「つながり方」が価値を生む(2:集団間の橋渡し))

参考文献

  • 入山省栄 (2019). 世界標準の経営理論.
  • R. S. Burt (1992). Structural holes: the social structure of competition. Harvard University Press.
  • S. Rodan & C. Galunic (2004). More than network structure: How knowledge heterogeneity influences managerial performance and innovativeness. Strategic management journal, 25(6), 541-562.
  • M. Granovetter (1983). The Strength of Weak Ties. American Journal of Sociology, 78(6), 1360-1380.

この記事の執筆者

太田雄貴

(株)ハピネスプラネット

ヒューマンデータ
サイエンティスト

2017年東京工業大学大学院総合理工学研究科博士前期課程修了。同年、(株)日立製作所入社。研究開発グループにて、公共系分野における機械学習や数理最適化の技術を活用した予測・効率化AIシステムの研究開発に従事。2020年に株式会社ハピネスプラネットに創業当初より参画。従業員の生産性・メンタルウェルビーイングの改善に関する実証実験を推進し、それ以外にも新規サービス企画、システム・ソフトウェア開発、アルゴリズム設計、特許出願、講演活動など、多岐にわたる業務に日々奮闘中。趣味は自然を楽しむアウトドア。

辻聡美

(株)ハピネスプラネット

チーフアーキテクト

京都大学大学院情報学研究科博士前期課程了。(株)日立製作所入社後、研究開発グループ基礎研究所にて人間行動データの応用に関する研究に従事し、ウェアラブルセンサを用いた50組織2000名以上の職場コミュニケーションの計測と分析、マネジメント改善施策の実行に携わる。2020年の設立当初より株式会社ハピネスプラネットに参画。発明協会平成26年度関東地方発明賞発明奨励賞、第64回オーム社主催公益財団法人電気科学技術奨励会電気科学技術奨励賞受賞他。趣味は読書と旅行とDIY。

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