前回は「自分はチームの一員であるという感覚」がある人はエンゲージメントが高い傾向があると述べました。では逆に、ストレスフルでメンタルヘルスに影響するつながり方はどのような状況なのでしょうか?
日立製作所・ハピネスプラネット・東工大の共同研究についてご紹介します。
この研究では、日本の異なる業種10組織における、職場での従業員同士の対面コミュニケーションをセンサで収集しました。
対面コミュニケーションというのは、誰と誰がどれくらいの頻度で直接コミュニケーションしていたかという情報なので、ある意味最も「従業員同士のつながり」を表しています。
つまり、先ほどまで話した、「一緒に仕事をする実態のチーム」や、「仕事は別だけど雑談はする友人関係」など、全てのつながりを総合的に反映したネットワークといえます。
この研究では、どんなつながり方をしている従業員だとメンタルが好調なのか、あるいは逆にメンタルが不調なのか、職場の周りの人との関係性を調べました。
この研究で分かったことは、ものすごくシンプルです。
自分の周りに三角形のつながりがあること、それだけで職種に関係なく従業員の落ち込みやうつが少ない傾向にあることを発見しました。
三角形、つまり結束型のつながりが職場にできているほど、精神的にポジティブで幸福でいる可能性が高いということです。
前半でお伝えしたとおり、結束型には「信頼関係」が醸成されやすくなります。同僚とのつながり方が重要だということが、ここでも証明されました。
反対にメンタルが不調になるつながり方は、周りにV字が多い状態です。
一般的な組織図は、一人の管理職の下に複数の部下がつながるピラミッド構造で定義されていますが、この図の通りにコミュニケーションされるとV字ばかりになります。
上司と部下の縦の関係では会話をするけど、部下同士の横の関係では会話しない。
もしくは、複数の上司から仕事を頼まれるのに上司同士が連携していないので部下が板挟みになる。
このような状態がV字の状態です。
②で述べたように、V字の中央にいる人は情報をコントロールできるメリットがあります。しかし、身近な人同士がつながらずV字になっている状態では、「信頼関係」が醸成されず、複雑な知識もうまく伝達されず、人的資本の形成も阻害されます。
そのため結果的に、V字の真ん中の人には心理的負荷がかかると解釈できます。
そしてこの研究の面白いところは、集団単位で見た時が一番強く傾向が現れたことです。
つまり職場の中に三角形が増えると、相乗効果で集団全体のメンタルヘルスを向上させる可能性がさらに高くなるということです。
よって、あなたが職場で多様な同僚とコミュニケーションして横のつながりを増やすことは、職場全体の空気を良くし、あなた自身だけでなく周囲の人のメンタルヘルスを改善できる可能性があるということです。
ここまでで述べたように、「<結束>型(三角形)のつながり」が幸福に重要だということができます。
また、外との<橋渡し>のつながりが、生産性やイノベーションに関係してくることを紹介しました。
最後に、それぞれのつながりを育てるための工夫について紹介します。
→次へ(⑬ハピネスプラネットで前向きにつながりを育てる)
参考文献
- JH. Lee, N. Sato, K. Yano & Y. Miyake (2022). Universal association between depressive symptoms and social-network structures in the workplace. Scientific Reports, 12, 10170.
【目次】シリーズ「ソーシャルネットワーク研究と職場のハピネス」