前回は<結束>型には信頼・規範・相互監視という特性があることを紹介しました。
では、結束型のつながりがあると社会にどのようなメリットが生じるのか、世界のいろいろな先行研究を見ていきましょう。
<結束>型は、同じ集団内で密に連携して物事を進めることができるという点が、最大のメリットになります。これが具体的な場面でどのようないいことが起きるでしょうか。
(A)協力して人的資本を形成
教育において、子同士だけでなく親同士もつながっているほうが効果的。
お互いの子どもを見守ったりして、親同士が助け合って子育てできることが確認されています。(Coleman 1988)
密につながっている方が、協力して人的資本を形成できるという主張があります。つまり、子供や部下を育てるためにも、育成者同士がつながっている方が協力しやすく効率的と言えそうです。
(B)複雑な知識の伝達
組織の成長のためには知識や経験の共有が望ましいとされていますが、成果主義の組織ではライバルとなる同僚への共有を避ける動機が生じます。密な関係がある方が、協調的な規範が醸成されるため、相手と分かち合う意欲や動機が増すという研究があります。 (Reagans & McEvily 2003)
企業におけるノウハウや専門知識などの複雑な知識を伝達するためにも<結束>型が有効です。信頼関係があるので、お互いの知識や経験を共有して一緒に成長していこうという協調性が醸成されるからだと言えます。
(C)組織活動の効率化
組織として新しいことを始めるとき、まず「誰がどんな知識を持っているか」「誰に聞けば何がわかるか」を知っていることが重要です。このような暗黙知的な情報(Wegner 1987)も、密な関係性があると組織内に共有されやすくなります。
これによって、この仕事だったら誰に任せよう、これについて誰に聞こう、と一人で全部やる必要がなくなるので、協調して進めることができ、組織活動が効率化されます。
(D)集合知の蓄積
業界の発展のためには集合知の蓄積が不可欠です。イタリア料理人コミュニティでは、公開したレシピは他店で盗用しないという規範があるのですが、有名シェフほど監視されやすいため、規範を守る傾向があるとのことです。(Di Stefano 2014)
コミュニティ内でノウハウを自発的に共有してもらうためには、ルールが守られるという安心感があることが前提条件です。密なつながりがあると、お互いに信頼関係があるから誰も悪さはしないだろうとと安心して自分の知識を共有できると考えられます。
このようにいろいろな事例を挙げましたが、 <結束>型のつながりの持つ信頼・規範・相互監視という特徴は、人と協力することで自分ひとりではできない様々なことを、チームとして粘り強く推進していくために重要なものであると言えます。
では、ビジネスにおいて<橋渡し>型と<結束>型のどちらが重要なのでしょうか?
→次へ(⑥イノベーションを生むつながり方はどっち?)
参考文献
- J. Coleman (1988). Social Capital in the Creation of Human Capital. American Journal of Sociology, 94, 95-120.
- R. Reagans & B. McEvily (2003). Network Structure and Knowledge Transfer: The Effects of Cohesion and Range. Administrative Science Quarterly, 48(2), 240-267.
- D. M. Wegner (1987). Transactive memory: A contemporary analysis of the group mind. In Theories of group behavior (pp. 185-208). Springer, New York, NY.
- G. Di Stefano, A. A. King & G. Verona (2014). Kitchen confidential? Norms for the use of transferred knowledge in gourmet cuisine. Strategic Management Journal, 35(11), 1645-1670.
【目次】シリーズ「ソーシャルネットワーク研究と職場のハピネス」