前回は昨今の時代の変化に注目しました。今回は、長い時間軸で見ると、幸福や長生きな人生にはどういう人のつながりがあるのかを整理していきます。
幸福に関しては、ハーバード大学の世界最長の幸福に関する研究をご紹介します。
この研究ではなんと84年間に渡って同じ人間の人生を追跡調査しています。
この研究は最初は男性の被験者が中心だったのですが、途中から妻子や孫も含めて3世代に拡大し、合計2000人以上を対象にしています。
これだけ長期間に渡って人の一生を追跡した研究は世界的にも稀です。
この研究の責任者であるウォルディンガー教授は、よく人から「この研究から得られた示唆は、要約すると何ですか?」と聞かれるそうです。つまり幸福な人生にとって一番重要なものは何かという質問です。
彼はこう答えるそうです。「良い人間関係が、人の幸福に不可欠である」。
なんとなく誰もが分かっていたことだと思いますが、これだけ長期間の研究結果から得られる示唆も、やはり人間関係が大事だということなのです。
これだけでも十分な研究結果ですが、あくまでアメリカ中心の調査結果なんじゃないか、と思われる方もいるかもしれないので、もう一つ研究を紹介しましょう。
ホルト・ルンスタッドという女性の心理学者が、世界中で実施された148個の別々の研究結果を調査して、共通的に得られる知見がないか分析しました。いわゆるメタ分析というものです。
対象の国は日本を含むアジア、ヨーロッパ、中東、米国・カナダなどの17の国・地域。これらの研究の被検者はのべ30万人以上になります。
この調査から得られた結論は簡単に言うとこうです。
「全ての年代、性別、民族において、強い社会的つながりが長生きの確率を高める」。
つまり、アメリカだけでなく世界的にみても、良好な人間関係があった方が健康で幸福だということです。
それだけ「社会的つながり」は、幸福にとって普遍的に重要な要素だといえます。
もちろん、これらの研究結果で示しているつながりは、会社内の人間関係だけに限ったものではありません。家族とのつながり、友人とのつながり、そういったものが総合的に重要であると示しています。
しかし、多くの社会人にとって1日の半分は仕事をして過ごすのですから、仕事における人間関係も幸福にとって非常に重要です。
次はもう少し視点を絞り、職場における人間関係をみていきましょう。
→次へ(⑩「職場に親友はいますか?」エンゲージメントとの関係)
参考文献
- R. Waldinger & M. Schulz (2023). The Good Life.
- J. Holt-Lunstad, T. B. Smith & J. B. Layton (2010). Social Relationships and Mortality Risk: A Meta-analytic Review. PLoS medicine, 7(7), e1000316.
【目次】シリーズ「ソーシャルネットワーク研究と職場のハピネス」