1.私の中の「AI」は、3年間でずいぶん変わった
筆者が生成AIを使い始めてから、もう3年以上になります。
最初に「自然言語でコンピュータに指示できる」と聞いたとき、正直なところ、それほど大きな価値を感じませんでした。当時、頭の中にあったのは、従来のプログラムの延長です。
たとえばExcelで、=MAX(A:A) と書く代わりに、「A列の最大値を出して」と日本語で書ける。
確かに少し便利かもしれない。でも、それなら関数を書けばいい。わざわざAIを使うほどのことだろうか、と思っていました。
ところが、生成AIのモデルが高度化するにつれて、筆者自身の使い方も少しずつ変わっていきました。
まず、ビジネスメールの定型文を書かせるようになりました。次に、プログラムを書くとき、関数の中身を丸ごと作ってもらうようになりました。
最近では、一つ目のAIと対話しながら「どんなアプリを作りたいのか」を整理し、そのAIに指示書を書いてもらい、二つ目のAIに渡して実装まで丸ごと任せる、という使い方をしています。
そして仕事が終われば、三つ目のAIに「今日の夕食、どうしよう」と雑談につきあってもらうことまであります。
振り返ってみると、変わったのはAIの性能だけではありません。
筆者の中にある「AIとは何をするものなのか」という mental model(心的モデル)そのものが、使うたびに書き換わってきたのです。
最初は「自然言語で操作できるプログラム」だったものが、「文章を書く道具」になり、「プログラミングを手伝う道具」になり、いまでは「考えるところから実行までを分担する相手」になっています。
生成AIへの習熟とは、単に操作方法を覚えることではないのかもしれません。
使いながら、「このAIには何ができるのか」「どこまで任せられるのか」「自分は何を担うのか」という理解を更新していくこと。
今回紹介する研究は、まさにこのプロセスに注目しています。
Agarwal, A., Sebastian, M.P. & Krishnan, S. Understanding GenAI Teammates in the Workplace: A Sensemaking and Sensegiving Analysis of User Reviews. Information Systems Frontiers 28, 803–825 (2026).
https://doi.org/10.1007/s10796-025-10672-5
2.44万件のレビューから「AIとの付き合い方」を読み解く
Agarwalらの論文 Understanding GenAI Teammates in the Workplace は、ChatGPTの利用者が生成AIをどのように理解し、その理解を変化させていくのかを研究したものです。
研究チームは、2025年5月31日までにGoogle Playストアへ投稿されたChatGPTのレビュー887,567件を取得しました。そこから重複や本文のないレビューを除き、最終的に443,338件を分析しています。
分析の流れを単純化すると、次のようになります。

まず、数字や特殊文字、一般的な不要語に加えて、ChatGPT、AI、appなど、ほぼすべてのレビューに出てきて分析上の区別に役立たない単語を除外しました。そのうえで、単語の基本形への統一や、2語・3語で意味を持つ表現の抽出などを行っています。
次に使ったのが、LDA(潜在的ディリクレ配分法)による topic modeling(トピックモデリング)です。
これは、文章の中でどの言葉が一緒に現れやすいかから、その背後にある話題を統計的に推定する方法です。トピック数を1~40まで比較した結果、意味的一貫性を示す coherence score(一貫性指標)が最も高かった4トピックを採用しました。
さらに K-means clustering(K平均クラスタリング)と hierarchical clustering(階層クラスタリング)も併用し、異なる方法でも似た意味の語がまとまるかを確認しています。K平均クラスタリングでは8つのクラスターが採用されました。
ただし、ここからがこの研究の特徴です。
コンピュータが自動的に「これはAIとの関係形成だ」と結論づけたわけではありません。
たとえば、「メールを書く」「アイデアを考える」「コードを書く」「複雑な話題を理解する」といった表現が同じテーマとして現れると、研究者はそれを Task–Technology Fit(課題と技術の適合)や Perceived Usefulness(知覚された有用性)といった、情報システム研究で蓄積されてきた概念と対応づけました。
さらに、抽出されたテーマを sensemaking(意味形成)と sensegiving(意味付与)の理論を使って解釈し、最終的なモデルを組み立てています。
したがって、この研究は「44万件から統計的に3段階が発見された」という研究ではありません。
大量の自然な利用者の語りから繰り返し現れる経験を取り出し、既存理論と照らし合わせながら、「人はAIとこのような過程で関係を作っているのではないか」というモデルを構築した、abductive(仮説形成的)な theory-building(理論構築)の研究です。
3.Envision(構想)→ Evolve(発展)→ Engage(関与)
著者らが提案したのが、3E model(3Eモデル)です。
かなり単純化すると、次のようになります。

Envision(構想)――「何ができそうか」を想像する
最初、人は自分がすでに知っている仕事を手がかりに、AIについて仮の理解を作ります。
「文章を書けそう」
「翻訳できそう」
「コードを書けそう」
といった具合です。
著者らは、こうした初期の期待には Perceived Usefulness(知覚された有用性)や仕事の性質、AIに対する認知的な捉え方などが関係するとしています。
Evolve(発展)――使いながら理解を書き換える
しかし、実際に使ってみると、予想とは違うことが起こります。
「思ったよりアイデア出しがうまい」
「数字は自信満々に間違える」
「こういう背景を渡すと急に良くなる」
「この仕事にも使えるのではないか」
こうした成功と失敗を通じて、ユーザーはAIについての mental model(心的モデル)を修正します。
著者らはこの過程を Revisioning(見直し・再構成)と呼び、試行錯誤、出力の評価、仕事との適合、問題そのものの捉え直しなどを重要な要素として挙げています。
ここで面白いのは、単に「AIについて詳しくなる」のではないことです。
AIへの理解が変わることで、人間とAIの役割分担まで変わっていきます。
Engage(関与)――AIが仕事の一部になる
やがて、
「この仕事ならまずAIに渡す」
「ここまでは任せるが、最後は自分で確認する」
といった使い方が定着します。
しかし3Eモデルは、ここで終わりません。
AIを日常的に使うことで、今度は「こんなこともできるのではないか」と新しい用途が見えてくる。その結果、Envision(構想)そのものが更新されます。
著者らは、AI利用を一方向の adoption(採用)ではなく、利用によって期待や目標自体が変化する recursive(再帰的)なプロセスとして捉えています。
4.なぜ論文タイトルは「Tool(道具)」ではなく「Teammate(チームメイト)」なのか
ここまで読んで、論文タイトルにある Teammate(チームメイト)という言葉が興味深く見えてきます。
生成AIは、単に機能の決まった Tool(道具)とは少し違います。
従来型のソフトウェアなら、

という関係が比較的成り立ちます。
一方、生成AIは文章を書き、分析し、アイデアを出し、コードを書き、議論もできます。
できることが広すぎるため、「このAIの仕事はこれです」と最初から完全に決めることがむしろ難しい。
論文でも生成AIは、人間の能力を単に置き換える存在ではなく、interaction(相互作用)と mutual learning(相互学習)を通じて価値を共につくる collaborative agent(協働する主体)として位置づけられています。
この姿は、日本企業で言われる「メンバーシップ型雇用」に、少し似ているようにも見えます。
これは著者ら自身の主張ではなく、ここから筆者が考えたアナロジーです。
厳密な job description(職務記述書)によって仕事を決めてから人を採るのではなく、まず組織のメンバーになり、いろいろな仕事を経験する。その中で本人の強みや周囲との組み合わせを見つけ、役割を調整していく。
生成AIも似ています。

AIなのだから、その「スキル」を調べれば仕事を合理的に割り当てられそうに思えます。
しかし、汎用的な生成AIだからこそ、実際にどう力を発揮するかは、AI単体の能力だけでは決まりません。
使う人の専門性、問いの立て方、確認能力、仕事の性質、チームの慣行などとの組み合わせによって、「そのAIに何を任せると価値が出るのか」が変わります。
つまり、AIの役割は、AIの中にあらかじめ存在するのではなく、人間との相互作用の中で発見されていくのです。
5.AIについての理解は、一人では作られない
さらに、この役割形成は一人とAIだけの問題でもありません。
同僚が、
「議事録の整理にはかなり使える」
「この数字は必ず確認した方がいい」
「最初にこういう情報を与えるとうまくいく」
と話す。
すると、そのAIをまだあまり使っていない人の mental model(心的モデル)まで変わります。
これが論文でいう sensegiving(意味付与)です。
sensemaking(意味形成)が「自分はこのAIをどう理解するか」だとすれば、sensegiving(意味付与)は、「自分の理解を表現することで、他者の理解にも影響を与えること」です。論文ではレビューを書く行為そのものも、その一つとして捉えています。
AIへの習熟は、個人の頭の中だけで進んでいるわけではないのです。
6.組織もまた、「AIとは何者か」を学んでいる
ここから視点を組織全体へ広げてみます。
会社がChatGPTやCopilotを導入した瞬間、「この会社におけるAIの役割」が決まるわけではありません。
同じAIでも、ある人は文章作成に使い、別の人は分析に使い、別の人は議論相手として使います。
そして、
「これはうまくいった」
「ここは危なかった」
「この仕事は人間よりAIから始めた方がよい」
といった経験が組織の中を流れていく。
その結果、
「私たちの仕事にとって、AIとは何なのか」
という共有された理解が少しずつ形成されます。
すると、企業へのAI導入も違って見えてきます。
従来のソフトウェア導入は、
目的を決める→ツールを選ぶ→ルールを作る→研修する→使わせる
と考えがちでした。
しかし生成AIでは、

という循環の方が実態に近いのかもしれません。
この見方に立てば、管理者の仕事も「正しいAI利用法を教えること」だけではなくなります。
現場で生まれた成功や失敗を拾い上げ、人々の間で共有し、「この組織ではAIとどう働くのか」という理解を更新できる場を作ることも重要になります。
著者らも、AIの影響は技術そのものの高度さだけでなく、それが人々にどう解釈され、仕事に組み込まれていくかによって変わると論じています。
7.「私にとってのAIとは何者か」を、探し続ける
生成AI以前のソフトウェアでは、導入する時点で「この道具は何をするものなのか」がかなり明確でした。
しかし生成AIは違います。
モデルを開発した企業にも、導入する経営者にも、実際に使う現場にも、「このAIが自分たちの仕事の中でどんな役割を持つのか」は、最初から完全には分かりません。
だから生成AIを使うとは、完成した道具の正しい操作方法を覚えることではないのかもしれません。
まず、一緒に仕事をしてみる。
その中で、「これは得意そうだ」「ここは任せない方がよさそうだ」「こう頼むと力を発揮する」と少しずつ理解していく。そしてAIへの理解が変われば、人間側も仕事の仕方や役割を変えていきます。
Agarwalらの3Eモデルが描いているのは、まさにこの繰り返しです。
そして、その探索は一人の中だけで完結するものでもありません。
「この使い方はうまくいった」
「ここはまだ人間が見た方がいい」
「こんな仕事にも使えた」
そんな経験が人から人へ伝わることで、個人の mental model(心的モデル)が変わり、やがてチームや組織の中にも「私たちはAIとこう働く」という理解が形づくられていきます。
つまり、AIの役割は、AIの能力だけで決まるものではありません。人間の能力、仕事の性質、問いかけ方、組織の慣行などとの関わりの中で、少しずつつくられていくものです。
だから、「生成AIを使ってみたけれど、いまいちだった」と感じたとしても、その一度の経験だけで「自分の仕事には使えない」と結論づけなくてもよいのだと思います。
今はうまく任せられない仕事でも、問い方を変えれば違う結果になるかもしれません。別の仕事では、思いがけない強みが見つかるかもしれません。そして生成AIそのものも、数か月後にはまた変わっています。
筆者自身も、この3年間で「AIとは何者か」という答えを何度も書き換えてきました。そして、おそらくこれからも書き換えていくのでしょう。
生成AIへの習熟には、「正しい使い方」を覚えれば終わり、という到達点はないのかもしれません。
試して、理解し直して、役割分担を変える。その経験を誰かと共有しながら、自分や自分たちの組織にとって、AIがどんな存在になりうるのかを探し続ける。
それこそが、生成AIとともに働くことの「習熟」なのだと思います。



