重要な会議やプレゼンテーションの前に不安を感じたことはありませんか?多くのビジネスパーソンが、重要な場面で「失敗してはいけない」というプレッシャーから実力を十分に発揮できなかった経験があるかと思います。プレッシャーのかかる場面では、「自分の不安を書き出す」という簡単な方法でのパフォーマンスを向上させることが分かっています。
今回紹介するのは、アメリカのシカゴ大学のGerardo Ramirez氏とSian L. Beilock氏による研究です。
出典
- Ramirez, G., & Beilock, S. L. (2011). Writing about testing worries boosts exam performance in the classroom. Science (New York, N.Y.), 331(6014), 211–213. https://doi.org/10.1126/science.1199427
実験概要:不安の書き出しはパフォーマンス向上につながるか
この研究は「テスト前に自分の不安を10分間書き出す」というシンプルな手法が、高いプレッシャー下でのパフォーマンス向上に繋がるかどうかを検証したものです。研究は主に2段階で実施されました。
大学生を対象にした実験室での検証
最初の実験では、20名の大学生が参加しました。まず、全員が通常通りの状況で数学テストを受け、その後学生たちは「報酬がかかったパートナーとの協力」や「他者からの評価」といったシナリオで心理的なプレッシャーがかかる設定のもと、もう一度テストを受けました。このテストの直前に、半数の学生が自分の不安や考えを書き出し(表出的書き出しグループ)、もう半数は静かに待機する(コントロールグループ)よう指示されました。結果、書き出しを行った学生は数学の正答率が平均5%向上し、書き出しをしなかった学生は正答率が12%低下するという結果が得られました。
高校生を対象にした現場実験
続いて、研究チームは実際の学校現場での効果を検証するため、シカゴの高校に通う9年生(約14〜15歳)106名を対象に調査を実施しました。この実験では、生物学の期末試験を受ける直前に、学生たちを「表出的書き出しグループ」と「コントロールグループ」にランダムに分け、それぞれ10分間の事前活動を指示しました。書き出しを行ったグループでは、テストに対して不安を抱えやすい学生が特に成績を向上させる傾向が見られ、これによって試験に対する不安の影響が抑制されることが確認されました。
実験結果:不安の書き出しがパフォーマンス向上に寄与
2つの実験結果から、「テスト前に不安を書き出すこと」がプレッシャーを感じる状況でのパフォーマンス向上に有効であることが示されました。大学生実験では、書き出しを行ったグループがプレッシャー下での成績を維持または向上させた一方で、書き出しを行わなかったグループは成績が低下しました。また、高校生の実験では、特にテストに不安を感じやすい学生に対して顕著な効果があり、成績が平均して6%向上しました。これにより、不安を書き出すことによって心理的負担が軽減され、テスト中の集中力が向上する可能性が考えられます。
なぜ不安を書き出すことが効果的なのか?
この方法が効果的である背景には「ワーキングメモリ(作業記憶)」による脳の働きが関与していると考察しています。プレッシャーを感じると、不安が脳のワーキングメモリを圧迫し、タスクに必要な集中力が阻害されることがあるとされています。しかし、テスト前に不安を書き出すことで、ワーキングメモリに占める不安がなくなり、余裕が生まれることでテストに集中できるようになると考察しています。
結論
この研究は、プレッシャーがかかる状況でのパフォーマンスを向上させるシンプルな方法として「不安を書き出す」ことの有効性を示しています。プレッシャーに強くなるための「書き出し」 をするこの技術は、ビジネスシーンでも活用できる可能性があります。例えば、重要な会議やプレゼンテーションの直前に、自分の不安や懸念を書き出してみましょう。頭の中にある雑念が整理され、プレッシャーが軽減されて、自分の発揮したい力に集中できるかもしれません。