仕事への熱意や職場への愛着を示す従業員エンゲージメント。2024年に発表された米ギャラップ社の調査では、日本の「仕事に対して意欲的かつ積極的に取り組む人(Engaged)」の割合はわずか6%にとどまっており、世界最低水準であることが報告されています。
従業員エンゲージメントの低さが問題視されている一方で、この結果には日本人の国民性「謙虚さ」が反映されているのではないかという見方もあります。つまり、自分に求めるハードルが高いが故に回答結果が低くなっているのではないかということです。
今回は日本と欧米の労働者の文化比較を行った論文を紹介します。イギリス、ノッティンガム大学の小寺准教授の研究では、日本とオランダの労働者間でメンタルヘルスにどのような違いがあるかを調査しました。
出典
- Kotera, Yasuhiro & Laethem, Michelle & Ohshima, Remi. (2020). Cross-cultural comparison of mental health between Japanese and Dutch workers: Relationships with mental health shame, self-compassion, work engagement and motivation. Cross Cultural & Strategic Management. ahead-of-print. 10.1108/CCSM-02-2020-0055.
研究:日本とオランダの労働者間でのメンタルヘルス比較
この研究では、165人の日本人労働者と160人のオランダ人労働者を対象にオンライン調査を行いました。調査では、
- メンタルヘルス問題(DASS-21: Depression Anxiety and Stress Scale-21)
- 恥(ATMHP: Attitudes Towards Mental Health Problems)
- セルフコンパッション(SCS-SF: Self-Compassion Scale-Short Form)
- 仕事へのエンゲージメント(UWES-9: Utrecht Work Engagement Scale-9)
- 仕事の動機づけ(WEIMS: Work Extrinsic and Intrinsic Motivation Scale)
等の心理的尺度を測定し、これらの変数の数値、関係性、メンタルヘルス問題の予測因子を比較しました。
結果
- 日本の労働者は、オランダの労働者よりも、メンタルヘルス問題・仕事へのエンゲージメント・内発的動機の数値が低い一方、恥は高い傾向にあった。
- 日本の労働者はセルフコンパッションが全ての心理的変数と関連があった一方、オランダの労働者は限定的な関連にとどまった。
- 日本の労働者はセルフコンパッションがメンタルヘルス問題の負の予測因子であり、オランダの労働者においては仕事へのエンゲージメントがメンタルヘルス問題の負の予測因子であった。
日本人にはセルフ-コンパッションが向いている?
本研究では、日本とオランダの労働者のそれぞれの文化的背景がメンタルヘルスにどのように影響するかを調査しました。
こと日本では、セルフコンパッションがメンタルヘルス問題を予防する重要な要素であり、欧米で重視されるエンゲージメントとは異なる傾向が見られました。
セルフコンパッションとは、簡単に説明すると「親友に接するように、自分自身に対して優しく思いやる」ことを言います。
日本人においてセルフコンパッションが効果的だったのは、それだけ親友と自分で求めるものに乖離があり、自己評価が厳しいことに理由があるのかもしれません。
従業員のエンゲージメントを上げることも大事ですが、自己評価が低くなりがちな日本の労働者にとっては、自分を思いやり、優しく接するセルフコンパッションの方が、メンタルヘルス向上に向いているようです。