リモートワークで職場コミュニケーションはどう変わったか?Microsoftの調査より

XLineFacebook

新型コロナウイルス感染症の拡大によって、世界中の企業のオフィスワーカーが2020年3月頃から急速にリモートワークに移行しました。弊社もリモートワーク中心の働き方に変更しましたが、個人的な感想としてはプログラミングや執筆などの一人作業に集中できて嬉しいという気持ちと、なんとなく同僚とのつながりが薄くなって寂しく感じることが増えた気もします。実際にはリモートワークはどのような影響を及ぼしたのでしょうか?今回は、Microsoft社から発表された、コロナ禍前後のオフィスワークとリモートワークでのコミュニケーションの違いを分析した興味深い研究をご紹介します。

米国Microsoft社の分析

米国Microsoft社では自社の従業員61,182 人の電子メール、スケジューラ、インスタントメッセージ、ビデオ/音声通話、週の労働時間に関するデータを集めて分析しました1

これには誰と誰がいつコミュニケーションしたかの記録が含まれており、社内の人と人がどのようにつながっているかを知ることができます。
さらにこの研究はただ集計しただけではなく、DiD(Difference in Difference)法という手法を使って以前からリモートワークだった人と以前はオフィス勤務だった人の変化を比較しています。これによって、2020年3月に起きたリモートワークへの変化によるものかそれ以外の要因によるものかを区別して分析しており、その点において信頼できる研究だと言えます。

結論を先に言いますと、

  • コミュニケーションする人の数
  • 会議の時間
  • メールの数
  • 勤務時間

は変わらなかったのですが、リモートワークによって

  1. 人間関係が固定化した
  2. 人間関係がサイロ化(タコツボ化)した
  3. 非同期コミュニケーションが急増した

という変化が起きたことが示されました。それぞれについて見ていきましょう。

①人間関係の固定化

コミュニケーションの相手を時系列で追うと、コロナ前(オフィス勤務)では次第に何人かとはコミュニケーションしなくなり、一方で新しい人とコミュニケーションするようになります。そしてしばらく疎遠になっていてもまた復活することもありました。しかし、コロナ後(リモートワーク)にはそのような変化が少なくなり、同じ人とばかりコミュニケーションするようになったそうです。

この研究では対面コミュニケーションは計測されていないのですが、実際にオフィスにいると偶然会って立ち話したり、同僚の友人を紹介してもらったりすることで自然に人間関係が動くのだと考えられます。そのようなダイナミクスが失われたと言えます。

②人間関係のサイロ化(タコツボ化)

リモートワークになってから同じチーム・部署の人とのコミュニケーションの比率が増え、他の部署・他の職種とのコミュニケーションが減りました

気持ちを想像してみますと、手続きや新しい技術について他部門の人に少し聞きたいことがあったとき、廊下で顔を合わせたら簡単に聞けるのにわざわざメールやメッセージを書いて聞くほどでもないし、相手も忙しいかもしれないし、と遠慮してしまうことはあるのではないでしょうか。
部門間の「知識移転」が企業にとっての価値を生むと言われていますが2知識移転の機会が減少したことをこの論文の執筆者らも懸念しています。

③非同期コミュニケーションの急増

コロナ前のコミュニケーションの大半は対面(直接顔を合わせて話す)での立ち話か会議室での会議でしたが、それがすべて立ち話が電話に、会議がビデオ会議に置き替えられたわけではありません。会議とビデオ会議の時間には変化がありませんでしたが、電話や音声通話よりもチャットが大幅に増えたのです。

これの違いは何かというと、対面コミュニケーションや音声通話は同期コミュニケーション(同じ時間を共有して言葉をやり取りする)ですが、インスタントメッセージによるチャットは非同期コミュニケーション(いつ返事が来るかわからない)であるという点です。

出典:Adobe Stock

メディア同期理論3では、非同期のチャネル (インスタントメッセージや電子メール) は情報の伝達に適しており、同期のチャネル (電話や音声通話) は情報の意味を収束させるのに適しているとされています。情報の意味を収束させるとは、あいまいな物事に対して、会話を進めるうちに「これってこういうことだよね」と話者の間で合意形成ができてくるということです。一方で、非同期チャネルでは辞書のように意味がすでに決まっているものをそのまま伝達するには向いているが、まだやわらかい概念や誤解を招く可能性を含む物事を伝えるには向いていないのです。

まとめ

私たちはリモートワークの恩恵を大いに受けていますが、この研究からそのデメリットも明らかになりました。それを改善するためには上記の逆の行動をするように働き方の仕組みを作っていくことが必要でしょう。つまり、①新しい人や久しぶりの人に連絡を取る②部署やチームを超えたつながりを重視する③新しいアイディアについて伝えたいときにはチャットから対面やビデオ通話に切り替える、などの方法を意識することが有効なのではないでしょうか。

みなさまもリモートワークとオフィス勤務のそれぞれのメリットを活かした働き方を探してみてください!

リモートワーク・ハイブリッドワークでの職場のつながり作りにおすすめ!
▼▼▼▼▼

参考文献

  1. Yang, L., Holtz, D., Jaffe, S. et al. The effects of remote work on collaboration among information workers. Nat Hum Behav 6, 43–54 (2022). https://doi.org/10.1038/s41562-021-01196-4  ↩︎
  2. Argote, L. & Ingram, P. Knowledge transfer: a basis for competitive advantage in firms. Organ. Behav. Hum. Dec. Process. 82, 150–169 (2000). https://doi.org/10.1006/obhd.2000.2893 ↩︎
  3. Dennis, A. R., Fuller, R. M. & Valacich, J. S. Media, tasks, and communication processes: a theory of media synchronicity. MIS Q. 32, 575–600 (2008). https://doi.org/10.2307/25148857 ↩︎

この記事の執筆者

辻聡美

(株)ハピネスプラネット

チーフアーキテクト

京都大学大学院情報学研究科博士前期課程了。(株)日立製作所入社後、研究開発グループ基礎研究所にて人間行動データの応用に関する研究に従事し、ウェアラブルセンサを用いた50組織2000名以上の職場コミュニケーションの計測と分析、マネジメント改善施策の実行に携わる。2020年の設立当初より株式会社ハピネスプラネットに参画。発明協会平成26年度関東地方発明賞発明奨励賞、第64回オーム社主催公益財団法人電気科学技術奨励会電気科学技術奨励賞受賞他。趣味は読書と旅行とDIY。

こちらの記事もおすすめです