リアルタイムで「国民の幸福度」がわかる?―Google検索データから読み解く「幸せの今」

調査に頼らず“検索ワード”だけで国全体の幸福度を推定する新しい手法とは?

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「最近、職場の空気がどんよりしてる気がする…」
そんな感覚、ありませんか?

日本のビジネスパーソンにとって、日々の忙しさに追われる中で、自分や社会の“幸福度”を気にする余裕は少ないかもしれません。しかし、実は“幸福”と経済や生産性は密接な関係にあります。研究によれば、幸せな人ほど健康で生産性が高く、社会的にもポジティブな行動をとる傾向があるのです。

ところが、これまでの「幸福度の測定」は、多くがアンケート調査に依存していました。しかしその方法には課題があります。例えば…

  • 回答疲れ(サーベイ・ファティーグ)
  • 実施コストや集計にかかる時間
  • 結果が出るまでに1〜2年かかる

そこで注目されたのが、「Google検索データ」を使ってリアルタイムに幸福度を推定するという、画期的な研究です。

出典

実験概要:検索ワードから“幸せ”がわかる?

なぜ検索ワードが幸福度のヒントになるのか?

考えてみてください。あなたがストレスを感じているとき、どんな言葉を検索しますか?

  • 「頭痛 対処法」
  • 「仕事 辛い」
  • 「やる気が出ない」

逆に、気分がいいときは?

  • 「ライブチケット 予約」
  • 「面白い 映画」
  • 「旅行プラン」

このように、人は感情に応じて情報を探します。つまり、検索行動には感情の痕跡が残っているのです。今回の研究では、こうした「感情ワード」をGoogle Trends™で収集・分析することで、国民の幸福度を推定できるかを検証しました。

方法:AIと検索データで「幸福度指数」を構築

研究では、次のようなステップで指標を作りました。

① 感情ワードの選定(69語)

心理学的に「ポジティブ」「ネガティブ」感情を表す言葉を選出(例:happy, sad, love, fear, music, headache など)

② 検索データを収集(Google Trends)

イギリスを対象に、2011〜2023年の検索ボリュームを収集し、週単位で整理。

③ 機械学習で重要ワードを抽出(XGBoost)

幸福度との相関が強いワードを絞り込み(例:「sad」「headache」「music」などが上位に)

④ 幸福度との重み付けを計算(ElasticNet)

各ワードに「幸福度に対する影響度(重み)」を与え、全体のスコアを算出。

結果:意外にもネガティブな検索ワードが鍵だった

注目すべきは、“ネガティブな言葉”のほうが、幸福度との関係が強かったこと。

なぜか?
理由は、「人はネガティブな感情を抱いたときほど、解決策を求めて検索する傾向がある」から。

つまり、「sad」や「headache」が多く検索されているときは、国全体として幸福度が下がっている可能性が高いのです。

そして、このアプローチで推定した幸福度は、実際の調査データと高い相関(RMSE 0.09)を示しました。

出典:Adobe Stock

海外展開も検証:オランダでも通用する?

研究者たちは、イギリスで構築したモデルをオランダに応用しました。英語の感情ワードをオランダ語に翻訳して同様に幸福度を推定したのです。

結果は…

  • 2011年データでは良好な精度(RMSE 0.08)
  • 2020年データではやや精度低下(RMSE 0.43)

データ量や質の影響があったものの、「同じワードセット+翻訳」で他国にも適用可能であることが示されました。

さらに、オランダ独自の感情ワード(例:「fijne(素敵な)」など)を加えると、精度が大きく改善されました(RMSE 0.05)。

会社員にとっての意義:これ、職場にも使える?

この研究が示す最大のポイントは、「幸福度は、リアルタイムかつ低コストで“推定”できる」ということ。

これは、企業や組織にも応用可能です。たとえば…

  • 社内チャットの発言ワードから“幸福スコア”を把握
  • 社員の気分の波に応じてマネジメント施策を調整
  • 経営層が判断する際の「空気感」の定量化

職場の幸福度がリアルタイムで“見える化”されれば、離職予兆の検知やメンタル不調の予防にも役立つかもしれません。

まとめ:検索の裏に感情がある。感情の裏に社会がある。

情報検索とは、単なる「便利な行動」ではなく、「感情から始まる行動」でもあります。

だからこそ、検索データを集めていくと、“今この社会で何が起きているのか”が浮かび上がってくる。

  • 「みんな、ちょっと疲れてる?」
  • 「気分転換に何か探してる?」
  • 「未来への不安が高まってる?」

こうした“空気感”を、数字としてつかめる時代になりつつあります。

私たちも日々の仕事や生活の中で、「見えない感情の波」を意識してみると、新しい発見があるかもしれません。

もっと深く学び、実践したい方へ

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Appendix:イギリスの幸福度測定で使われた感情ワード(69語)

  • Great(素晴らしい)
  • Joke(冗談)
  • Attentive(注意深い/思いやりのある)
  • Cry(泣く)
  • Punish(罰する)
  • Wellbeing(幸福)
  • Angry(怒っている)
  • Party(パーティー)
  • Joy(喜び)
  • Inspired(インスパイアされた)
  • Dead(死)
  • Reject(拒絶)
  • Well-being(幸福/健康な状態)
  • Cancer(がん)
  • Game(ゲーム)
  • Love(愛)
  • Active(活発)
  • Depressed(落ち込んだ/うつ)
  • Sad(悲しい)
  • Suicide(自殺)
  • Divorce(離婚)
  • Comedy(コメディ)
  • Music(音楽)
  • Alone(孤独)
  • Disease(病気)
  • Sick(体調不良)
  • Sleep(睡眠)
  • Hopeless(絶望的)
  • Friendship(友情)
  • Pleasure(喜び/楽しみ)
  • Abuse(虐待)
  • Fear(恐怖)
  • Stress(ストレス)
  • Sadness(悲しみ)
  • Pain(痛み)
  • Fun(楽しい)
  • Win(勝利)
  • Afraid(怖い)
  • Hate(憎しみ)
  • Tired(疲れた)
  • Boredom(退屈)
  • Weak(弱い)
  • Good(良い)
  • Movie(映画)
  • Anxiety(不安)
  • Headache(頭痛)
  • Worry(心配)
  • Depression(うつ)
  • Joyful(喜びに満ちた)
  • Happy(幸せ)
  • Song(歌)
  • Anxious(不安な)
  • Kill(殺す)
  • Wrong(間違い/悪い)
  • Loneliness(孤独感)
  • Contented(満ち足りた)
  • Health(健康)
  • Friend(友達)
  • Bad(悪い)
  • Lonely(寂しい)
  • Panic(パニック)
  • Ashamed(恥ずかしい/罪悪感)
  • Determined(決意した)
  • Hope(希望)
  • Alert(注意している)
  • Crime(犯罪)
  • Nervous(緊張している)
  • Upset(動揺している)
  • Unpleasant(不快な)

この記事の執筆者

村井康太郎

(株)ハピネスプラネット

カスタマーサクセスアーキテクト

新卒でPwCコンサルティング合同会社に入社後、人事コンサルティング部門にて大手メーカーやサービス企業の人事業務改革やグローバル人事システム、ピープルアナリティクス導入プロジェクトに従事。2021年より株式会社ハピネスプラネットに参画。カスタマーサクセスの改善の他、システムやサービスの開発に奮闘中。趣味は読書とトライアスロン。

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