近年、「心理的安全性」や「謙虚なリーダーシップ」 という言葉が日本でも広く知られるようになりました。心理的安全性とは、「失敗を恐れずに意見を言える環境」を指し、謙虚なリーダーシップとは、「リーダーが自分の限界を認め、部下の意見を尊重しながら共に成長するスタイル」を意味します。
これらの概念は欧米の企業文化から生まれたもので、Googleの成功事例 などを通じて、日本でも注目されるようになりました。しかし、「欧米型のフラットな組織ならともかく、日本の縦割りの強い組織で本当に効果があるのか?」 という疑問を持つ人も多いでしょう。
今回紹介するのは、まさにその問いに答える研究です。典型的な官僚組織である「法務省」の職員を対象に、心理的安全性や謙虚なリーダーシップが職場に与える影響を分析した研究(Kumagaya et al., 2025) を紹介します。
出典
- Kumagaya, Shin-ichiro & Matsuo, Akiko & Yui, Naomi & Ayaya, Satsuki & Kawahara, Takuya & Kashiwabara, Kosuke & Koto, Goro & Kamioka, Harue. (2025). Fostering employee engagement and mental health: Impact of psychological safety, humble leadership, and knowledge sharing in the Japanese public sector. International Review of Public Administration. 1-24. 10.1080/12294659.2025.2463135.
研究の概要
本研究では、日本の法務省の職員1,088名(75チーム) を対象に、オンライン調査を実施しました。調査対象は、課長補佐以下の職員 であり、現場レベルでのリーダーシップのあり方やチームの環境が職員に与える影響を分析しました。
調査対象となった要素
✅ 心理的安全性:「職場で自由に意見を言えるか?」「失敗を許容する文化があるか?」
✅ 謙虚なリーダーシップ:「上司は部下の意見を尊重するか?」「リーダー自身が学び続ける姿勢を持っているか?」
✅ 知識共有:「チーム内で業務の知識や経験が積極的に共有されているか?」
✅ 職員のメンタルヘルス:「ストレスレベルや不安・抑うつの度合い」
✅ 職務エンゲージメント:「職員が仕事に対して積極的に取り組めているか?」
この調査を通じて、心理的安全性や謙虚なリーダーシップが、職場のメンタルヘルスやエンゲージメントにどうような影響を与えるのかを調べました。

調査結果:心理的安全性は官僚組織でも有効だった
日本の官僚組織といえば、以下のような特徴を持つと言われます。
- 階層構造が強く、トップダウン型の意思決定が中心
- 決まったルールに従い、個々の裁量が少ない
- 「上が決めたことに従う」という文化が根付いている
こうした環境では、心理的安全性が機能しにくいと思われがちでした。しかし、本研究では、心理的安全性が高い職場ほど、職員のメンタルヘルスが向上し、仕事への関与が強まる ことが実証されました。
研究結果のポイント
✅ 心理的安全性が高い職場では、職員のメンタルヘルスが改善し、離職意向が低下
✅ 謙虚なリーダーがいる職場では、職員が積極的に意見を出し、チームの雰囲気が向上
✅ 知識共有が活発なチームでは、業務負担感が軽減し、より良い協力体制が構築される
つまり、心理的安全性や謙虚なリーダーシップは、日本の官僚組織でも十分に効果を発揮するということが分かったのです。
心理的安全性と謙虚なリーダーシップを高めるためにできること
「では、実際にどうすれば心理的安全性を高めることができるのか?」
ここでは、リーダーやチームがすぐに実践できる具体的なアクションを紹介します。
① リーダーができること
🔹 「私の考えはこうだけど、他の意見はある?」と積極的に意見を求める
🔹 ミスを責めるのではなく、「どうすれば改善できるか?」を一緒に考える
🔹 自分の限界を認め、部下の意見やアイデアを尊重する
✅ NG例:「この方針で進める。異論はないよな?」
✅ OK例:「この方針で考えているが、懸念点があれば教えてほしい。」
② チーム全体でできること
🔹 「こんなこと聞いたら怒られるかも…」という雰囲気をなくす
🔹 知識を積極的に共有し、新人でもすぐに業務に慣れるようにする
🔹 「なぜそう考えたの?」と相手の意見に興味を持ち、建設的な議論をする
✅ NG例:「なんでこんなミスをしたんだ?」(責める)
✅ OK例:「どこで問題が起きたのか、一緒に考えよう。」(解決策を探る)
まとめ:「心理的安全性」は日本の官僚組織でも機能する!
法務省職員を対象にした研究では、「心理的安全性」と「謙虚なリーダーシップ」が、官僚型組織でも職員のメンタルヘルスやエンゲージメント向上に寄与することが明らかになりました。
✅ 心理的安全性が高い職場では、職員のストレスが軽減し、仕事への意欲が高まる
✅ 謙虚なリーダーシップを発揮することで、心理的安全性が向上し、部下の意見が活発になる
✅ 知識共有を促進することで、業務負担感が軽減し、チームの生産性が向上
つまり、「心理的安全性」や「謙虚なリーダーシップ」は、決して欧米型組織だけのものではなく、日本の官僚組織でも十分に機能する のです。
あなたの職場でも、今日から心理的安全性を高めるためのアクションを始めてみませんか?