幸福度測定の近代史

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みなさんは「幸福度」はどうやって測るのか、考えたことはありますか? 最近は、国家政策から個人の人生戦略にまで「幸福度」が話題に上ることが増えています。でも、「幸福度」って抽象的ですよね。そこで心理学やポジティブ心理学の分野では、1980年代以降、幸福感を数値化するためのいろいろな「測定スケール」が開発されてきました。

今回は、そういった代表的な幸福度調査用スケールを年代順にご紹介します。それぞれの特徴や、実際どんな質問がされるのか、活用されているシーンをまとめつつ、みなさんが「どれを使えばいいの?」と迷ったときの指針にもなるような情報をまとめました。

出典:Adobe Stock

1. 1985年:人生満足度評価(Satisfaction with Life Scale, SWLS)

出典

  • Diener, E., Emmons, R. A., Larsen, R. J., & Griffin, S. (1985). The Satisfaction With Life Scale. Journal of Personality Assessment, 49(1), 71–75.

どんなスケール?
SWLSはEd Dienerらによって開発された、5項目からなる自己報告式アンケートです。「自分の人生にどれほど満足しているか」というシンプルな尺度から測定しています。


代表的な質問例

  • 「私は自分の人生にとても満足している。」
  • 「私の生活は、理想的に近いと言える。」

活用シーンとデータ

  • 各国で幅広く利用されており、海外や文化横断的な比較、時系列分析の研究で参照されています。
  • 政策立案でも参考指標となっています。

懸念点

  • 幸福の多面的要素(人間関係、成長、意味など)が十分に反映されない。要素分解が難しい。
  • 短く簡便な反面、その時の状況や気分による変動が大きいとされています。

2. 1988年:ポジティブ&ネガティブ感情スケール(PANAS)

出典

  • Watson, D., Clark, L. A., & Tellegen, A. (1988). Development and validation of brief measures of positive and negative affect: The PANAS scales. Journal of Personality and Social Psychology, 54(6), 1063–1070.

どんなスケール?
Watsonらが開発したPANASは、ポジティブ感情(PA)とネガティブ感情(NA)をそれぞれ10項目ずつ評価する20項目の質問票です。「わくわく」や「不安」といった感情を軸としているため、直感的にわかりやすく、介入実験でよく使われています。


代表的な質問例(※意訳)

  • ポジティブ感情: 「この1週間、どの程度『活気がみなぎっている』と感じましたか?」
  • ネガティブ感情: 「この1週間、どの程度『不安』を感じましたか?」

活用シーンとデータ

  • 介入実験で感情状態の変化を測る際に有用なスケールです。
  • 研究引用数も膨大で、教育・組織・ヘルスケア分野でも多く活用されています。

懸念点

  • 幸福を「感情」に集約しすぎる懸念がある。
  • ポジティブとネガティブを二項対立的に扱いがちで、感情の複雑性や多面性を捉えにくい。
  • 文化差によって特定の感情語彙が適切に翻訳・適用されない場合がある。例えば、「誇り」の感情は欧米圏では重視される一方、アジア圏ではそれほど重視されない傾向にあります。

3. 1989年:心理的ウェルビーイング尺度(Ryff Scales of Psychological Well-being, PWB)

出典

  • Ryff, C. D. (1989). Happiness is everything, or is it? Explorations on the meaning of psychological well-being. Journal of Personality and Social Psychology, 57(6), 1069–1081.

どんなスケール?
Carol RyffによるPWBは、自己受容、前向きな関係、自律性、環境統制、人生の目的、個人的成長の6次元からなる総合的な幸福感評価尺度です。幸福を単純化せず、納得感のある尺度を目指しました。人間の成長や自己実現といったマズローの欲求段階説を汲んでおり、理論的基盤がしっかりしています。


代表的な質問例

  • 「私は自分自身を、長所も短所も含めて受け入れられる。」(自己受容)
  • 「私は困難な環境に対して自分なりのコントロールを持っている。」(環境統制)

活用シーンとデータ

  • 学術研究での理論的モデル検証に多用。
  • 人間的成長や生きがいを測るため、臨床心理学、発達心理学領域で活用。

懸念点

  • 設問数が多く回答者負担が大きい。
  • 現実的な介入評価や政策評価に用いるのには負荷がかかる。

4. 1996年:フロー体験尺度(Flow State Scale, FSS)

出典

  • Jackson, S. A., & Marsh, H. W. (1996). Development and Validation of a Scale to Measure Optimal Experience: The Flow State Scale. Journal of Sport and Exercise Psychology, 18(1), 17–35.

どんなスケール?
チクセントミハイのフロー理論に基づき、活動中の没入度・集中度・楽しさなどを測定。スポーツや音楽、アート、仕事などで「時間を忘れて没頭する」状態を数値化します。集中しまくってるときの幸福感を測るイメージです。


代表的な質問例

  • 「私はこの活動中、自分が行っていること以外ほとんど気にしていなかった。」
  • 「この活動に完全に没頭し、時間感覚を失った。」

活用シーンとデータ

  • スポーツ心理学、クリエイティブ産業、教育分野でのパフォーマンス評価に有用。
  • ゲーム体験やUX改善の観点からも用いられる。

懸念点

  • フロー体験は状況に強く依存し、個人差や文化差が大きい。
  • 特定の活動中の状態を測るものなので、一般的な「幸福」全体の評価には向かない。

5. 1999年:主観的幸福感尺度(Subjective Happiness Scale, SHS)

出典

  • Lyubomirsky, S., & Lepper, H. S. (1999). A measure of subjective happiness: Preliminary reliability and construct validation. Social Indicators Research, 46(2), 137–155.

どんなスケール?
LyubomirskyとLepperによるSHSは4項目から成り、自分がどれほど幸福だと感じているかを、他者との比較を交えつつ簡潔に問う。


代表的な質問例

  • 「全体的に見て、私は非常に幸福な人間だと思う。」
  • 「私はほとんどの人より幸せだと思う。」

活用シーンとデータ

  • 設問数が少なく、短期介入や大規模アンケートで使いやすい。
  • 信頼性も高く、研究引用も多数。

懸念点

  • 他者比較が幸福感評価に混入するため、文化によって回答傾向が大きく変動する可能性。
  • 幸福を総合評価に集約しすぎるため、要因分析には向かない。

6. 2011年:PERMAプロファイル(PERMA Profiler)

出典

  • Butler, J., & Kern, M. L. (2016). The PERMA-Profiler: A brief multidimensional measure of flourishing. International Journal of Wellbeing, 6(3), 1–48.
  • Seligman, M. E. P. (2011). Flourish: A Visionary New Understanding of Happiness and Well-being. Free Press.

どんなスケール?
Martin SeligmanによるPERMAモデル(Positive Emotion, Engagement, Relationships, Meaning, Accomplishment)の5要素を測定するアンケート。幸福を5要素で分解して、どこが強い・弱いかを診断できます。


代表的な質問例

  • 「私の人生には、生きる意味や目的があると感じる。」(Meaning)
  • 「私は周囲との人間関係が温かく、支えられていると感じる。」(Relationships)

活用シーンとデータ

  • 教育プログラム、組織開発、コーチング、ヘルスケアなど幅広い領域で導入可能。
  • 5要素に分けてスコア化できるため、どの領域を改善すべきか明確化しやすい。

懸念点

  • セリグマンの理論モデルが主導するため、他の幸福理論を十分に取り込んでいないとの指摘。
  • 一部の要素定義が文化的文脈によって変化するため、国・地域によって妥当性が変わる可能性。
  • 幸福を5要素に限定することへの批判(もっと多面的であるべき、という指摘)も存在。

まとめ

  • スケール選択はケースバイケース
    • 短期的介入評価なら、PANAS,SHSが有効です。
    • 深層的、納得感のある評価をしたいのなら、PWB, PERMAが有効です。
    • 特定の体験(フロー)を測定したいなら、FSSが有効です。
  • 年代ごとの視点は変化している
    • 1980年代:人生満足度、感情(SWLS, PANAS)
    • 1990年代以降:成長、意味、関係性(PWB, FSS, SHS)
    • 2000年代以降:理論統合と多面性(PERMA)

幸福度測定は、シンプルな満足度評価から感情状態、多面的ウェルビーイング、特定体験、そして統合モデルへと多様に展開しています。各スケールの引用元論文や課題を理解しながら、目的や文脈に適したツールを柔軟に選び、活用することが、より実りある幸福研究・介入へとつながるでしょう。

実は、ここでご紹介した理論は、私たちの自社サービス開発にも生かされています。たとえば、フロー理論の提唱者であるチクセントミハイ氏やリュボミアスキー教授との共同研究*から、利用者が日々の生活で感じる『ささやかな幸せ』を自覚しやすくする工夫のヒントをいただきました。

このような専門家との協働によって、私たちのサービスは単なる理論紹介にとどまらず、実際に『幸福感を高めるための行動』へとつなげる機能を備えています。もし、「理論はわかったけど、どう実践したらいい?」と感じたら、ぜひ一度、弊社のサービスを試してみてください。実際に手に取っていただくことで、自分自身の幸福度向上をサポートする具体的な方法を見つけるきっかけになるかもしれません。

この記事の執筆者

村井康太郎

(株)ハピネスプラネット

カスタマーサクセスアーキテクト

新卒でPwCコンサルティング合同会社に入社後、人事コンサルティング部門にて大手メーカーやサービス企業の人事業務改革やグローバル人事システム、ピープルアナリティクス導入プロジェクトに従事。2021年より株式会社ハピネスプラネットに参画。カスタマーサクセスの改善の他、システムやサービスの開発に奮闘中。趣味は読書とトライアスロン。

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