私たちは日々の仕事の中で、様々な人々と交流しています。ある人と一緒に仕事をしたり、話し合うことでエネルギーをもらえた経験はありませんでしたか?あるいは逆に、エネルギーを失った経験があったかもしれません。
実は、このような「エネルギーをもらえる関係」は、仕事に対するモチベーションや仕事をする能力にも関係する重要な要因として注目を集めています。本稿では、この概念を具体化し、定量的に評価できる尺度を開発したアメリカの研究チーム、Owensらの研究を紹介します。
出典
- Owens, B. P., Baker, W. E., Sumpter, D. M., & Cameron, K. S. (2016). Relational energy at work: Implications for job engagement and job performance. Journal of Applied Psychology, 101(1), 35.
https://doi.org/10.1037/apl0000032
Relational energyの定義と測定
Owensらの研究チームは、様々な職種の64人を対象に「同僚、上司、チームメンバーと一緒にいて元気になったことがありますか?」と質問し、ほぼすべての人(92%)で、エネルギーを与える人と交流することで仕事に対するモチベーションが高まることが分かりました。研究者らは、このように交流を通して得られるエネルギーを「Relational energy」と称し、以下のように定義しています:
対人的相互作用から生成される高められた心理的資源のレベルで、仕事を行う能力を向上させるもの
そして、「Relational energy」を定量的に評価するための尺度を開発しました。「Relational energy」は5つの項目で構成され、各項目は7点のリッカート尺度(1:強く同意しない、7:強く同意する)でスコアリングし、その平均値を尺度として活用しています。5つの項目は以下の通りです:
- I feel invigorated when I interact with this person
(この人と交流すると元気が湧いてくる) - After interaction with this person I feel more energy to do my work
(この人と交流した後は仕事をする気力が高まる) - I feel increased vitality when I interact with this person
(この人と交流すると活力が増す) - I would go to this person when I need to be “pepped up”
(元気を出したい時はこの人のところに行く) - After an exchange with this person I feel more stamina to do my work
(この人との交流の後は仕事をする体力が増す)
※括弧の内容は筆者が日本語に訳したものです。
この尺度の特徴は、ある人と交流したことにより得られるエネルギーを定量的に評価していることです。つまり、単なる良い人間関係を持っているから得られる心理的効果ではなく、交流を通して得られる効果に焦点を置いています。実際、各項目を見ると、具体的に「交流」をしてから得られる効果を特定していることが分かります。
そして、その効果は、仕事へのモチベーションや仕事を行う能力として評価されています。このような設計は、交流によってエネルギーがもらえた経験は共通して仕事への動機づけ的覚醒を伴うという、開発段階で行われた設問調査に基づいてます。
すなわち、「Relational energy」は交流をすることで、仕事を行う能力を向上させるエネルギーをもらえる関係を評価する尺度です。
「Relational energy」は概念だけではなく、実際に職務エンゲージメントやパフォーマンスと関係しています。Owensらは2つの大規模医療サービス組織(N=221, 123)を対象に調査を行い、「直属の上司とのRelational energy」が職員の職務エンゲージメント(例:私は私の仕事に没頭する)や職務パフォーマンス(核心業務タスク遂行にかかる時間)にポジティブな影響を持つことを検証しています。
まとめ
仕事へのエンゲージメントやパフォーマンスは個人や組織のミッションとして捉えられがちですが、人と人との相互作用は認識はしていているものの、なかなか変えられないものとして認識される傾向があります。
しかし、今回紹介した研究のように、エネルギーがもらえる関係は仕事に対する活力を生み出し、仕事の能力を向上させる重要な資源です。さらに、人と人の交流は個人だけでなく、交流する人々の中で影響し合います。つまり、エネルギーがもらえる源が多い組織では、個々人だけではなく周辺の人々のエネルギーが高まります。エネルギーをもらえる関係を多く作ることは組織のパフォーマンスを高めるための鍵です。