デジタルツールで「創造性」を上げるためのカギはマインドフルネスだった

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生成AI、Slack/Teams/チャット、タスク管理、BI、クラウド、…。
日々便利になっていく一方で、こんなことを感じたことはありませんか?

  • 通知に追い立てられて、思考が浅くなる
  • マルチタスクで疲れて、アイデアが出ない
  • “デジタル化”そのものがプレッシャーになる

実はこうした感覚は、個人の“気の持ちよう”の問題ではありません。
職場におけるデジタル技術の活用は、人によって創造性を「上げる」こともあれば「下げる」こともある――そんな「二面性」について研究した論文を今回は紹介します。

結論から言えば、

  • デジタル技術は、創造性を高める「資源の獲得ルート」にも
  • 創造性を損なう「資源の消耗ルート」にもつながりうる
  • そして、その“どちらに傾くか”を決めるのが「マインドフルネス」だ

という内容です。

出典

  • Tu, Y., Wang, S., & Lu, L. (2025).Dual pathways from the use of digital technologies to employee creativity: the moderating role of mindfulness. Frontiers in Psychology

この研究が答えようとした問い

先行研究では、「デジタルツールを使うことで創造性が上がる」とする報告もあれば、「むしろ下がる」という逆の結果も出ています。

そこで研究チームは、「なぜこのようなバラつきが出るのか?」を解明するために、次の2つの“心理的な中間変数”を設定しました。

  • 仕事のフローリッシング(Job Flourishing)
     学び・成長・活力がある、前向きに仕事ができている状態
  • 情緒的消耗(Emotional Exhaustion)
     燃え尽きのような状態。疲労感、無力感、不安などで意欲が削られている状態

さらに、個人差を生む要素として「職場でのマインドフルネス」を調整役(モデレーター)として追加します。


実験概要:どんな人を対象に、何をどう測ったのか?

■ 調査対象

  • 中国国内の 企業勤務者757名
  • 回収率は 63.08%
  • 男女比:女性46.9%、年齢層は20〜40歳が約7割
  • 主な業種:製造(35.7%)、情報通信(32.6%)、教育(20.6%)など

■ 測定内容(すべて5段階評価)

質問はすべて「1(まったくそう思わない)」〜「5(非常にそう思う)」の5件法で実施されています。

測定対象項目数信頼性(α値)内容の例
デジタル技術の利用8項目α=0.886IoT、クラウド、SNS、モバイルなど企業での導入度
仕事のフローリッシング10項目α=0.901学習意欲、やりがい、活力
情緒的消耗5項目α=0.882「仕事のあと疲れ果てている」など
職場マインドフルネス6項目α=0.899今の仕事に集中しているか、意図的な注意の持続
創造性7項目α=0.882「新しいアイデアを提案する」「独自の解決策を出す」など

💡 α値(クロンバックのα)とは?
数値が0.7以上で「測定が安定している」とされます。今回すべて0.88以上と、かなり信頼性が高い水準です。


結果:デジタル化が「創造性」を上げるときと、下げるとき

① まずは「相関関係」の確認

調査対象全体を見たときの「傾向」は以下の通り。

  • デジタル技術利用と フローリッシング:正の相関(r=0.244)
  • デジタル技術利用と 情緒的消耗:正の相関(r=0.357)
  • デジタル技術利用と 創造性:正の相関(r=0.287)

また、

  • フローリッシングと創造性:r=0.343(強い正の関係)
  • 情緒的消耗と創造性:r=−0.218(弱い負の関係)

つまり、「デジタル技術」は活力を与える一方で、同時にストレス源にもなりうるということが見えてきます。


② 「因果の構造」をより正確に:回帰分析

研究チームは、「どの要素が“媒介”となって、創造性に影響しているのか」を回帰分析で検証しました。

【ルートA】資源の獲得ルート(フローリッシング経由)

  • デジタル技術利用 → フローリッシング(β=0.242, p<.001)
  • フローリッシング → 創造性(β=0.341, p<.001)
  • この変数を加えると、元々の効果は小さくなるが残る(β=0.217) → 部分媒介が成立

【ルートB】資源の消耗ルート(情緒的消耗経由)

  • デジタル技術利用 → 情緒的消耗(β=0.357, p<.001)
  • 情緒的消耗 → 創造性(β=−0.219, p<.001)
  • この変数を加えると創造性への影響がより強く負の方向に(β=−0.367) → 負の媒介が成立

💡 β(ベータ値)とは?
影響の「強さ」と「方向(正or負)」を示す指標です。0.2を超えると中程度、0.3以上はやや強めの関係と見られます。


マインドフルネスは「どちらにも効く」

この研究がユニークなのは、マインドフルネスが「プラスの影響を強め」「マイナスの影響を弱める」両方向の調整効果を持っていた点です。

【調整効果①】マインドフルネス × デジタル利用 → フローリッシング↑

  • β=0.110(p<.001)
    → 注意力が高い人ほど、デジタルが“活力”につながりやすい

【調整効果②】マインドフルネス × デジタル利用 → 情緒的消耗↓

  • β=−0.140(p<.001)
    → 注意力が高い人ほど、デジタルが“疲れ”につながりにくい

「間接効果」でもマインドフルネスの差がはっきり

ブートストラップ法(繰り返し抽出)による分析でも、マインドフルネスの高低で創造性への影響がどう変わるかを確認しました。

経路マインドフルネス低マインドフルネス高差の大きさ
フローリッシング経由(+)0.0460.087+0.041
情緒的消耗経由(−)−0.158−0.085+0.073

まとめ:創造性を左右するのは「道具」より「使い方と心の扱い方」

この研究が示したメッセージは明快です。

  • デジタル技術の導入は、創造性のブースターにもブレーキにもなる
  • どちらに傾くかは、
    • フローリッシング(活力)の設計
    • 情緒的消耗の抑制
    • マインドフルネス(注意力)の維持
  • つまり、ツールそのものより「使い方と心の資源」のほうが決定的

生成AIに触る機会が増えてきた昨今だからこそ、使う前に一息ついて、心を落ち着けてから臨むようにしたいですね。

もっと深く学び、実践したい方へ

このコラムでご紹介したような知見を、第一線の研究者と共に深く学べる研修を開催しています。
講師は、フロー理論や心の資本など、国内外の研究者と共同研究を行ってきた矢野和男が務めます。バラバラに見える心理学的知見を、ウェルビーイングという軸で整理し直すことで、職場や組織に新たな視点が生まれます。
そして、プログラムで得た知見や参加者同士のワークショップを通じて、組織のウェルビーイングリーダーとしてのマインドセットを磨いていただきます。学びを現場へと活かし、組織内のウェルビーイング実践にご興味のある方は、ぜひ参加をご検討ください。

この記事の執筆者

村井康太郎

(株)ハピネスプラネット

カスタマーサクセスアーキテクト

新卒でPwCコンサルティング合同会社に入社後、人事コンサルティング部門にて大手メーカーやサービス企業の人事業務改革やグローバル人事システム、ピープルアナリティクス導入プロジェクトに従事。2021年より株式会社ハピネスプラネットに参画。カスタマーサクセスの改善の他、システムやサービスの開発に奮闘中。趣味は読書とトライアスロン。