日本の会社員にとって、週末の時間は貴重な回復のチャンスです。
「土日は休んだはずなのに、月曜からもう疲れている」
「日曜の夜になると、仕事のことが頭を離れない」
こうした経験は多くの方が抱えている悩みです。
仕事から心を切り離す力を専門用語で心理的デタッチメントと言いますが、うまくデタッチメントできないことが多くの会社員の悩みにもなっています。
実際、過去の心理学研究では、心理的デタッチメントが疲労回復・睡眠・仕事の集中力に大きく影響すると報告されています。
では、デタッチメントした方が週明けの仕事のパフォーマンスは本当に良くなるのでしょうか?
研究の結果は一貫していません。
- 週末に仕事を忘れられる人ほど疲労が少ないという研究もあれば、
- 逆に、忘れられたからといって週明けの調子が良いとは限らないという研究もあります。
このバラバラな結果の理由を探るため、ドイツの研究者グループが行ったのが今回紹介する研究です。
ポイントは、これまでとは違い「週末のどのタイミングでどれだけデタッチできていたか」──つまり“時間の流れ”に注目した点です。す。
出典
- Haun, V. C., Weigelt, O., Siestrup, K., & Kühnel, J. (2025).
Trajectories of Psychological Detachment Over the Weekend
Journal of Occupational Health Psychology.
研究概要:週末3日間の「デタッチメント(仕事の忘却度)」を追跡
研究の目的
この研究の目的は明確です。
- 週末(金〜日)で「心理的デタッチメント」がどう変化していくかを明らかにする
- その変化パターンごとに、月曜の疲労・睡眠の質・仕事への意欲がどう違うかを見る
- 特に、金曜日の過ごし方が週末の“デタッチパターン”を決めるのか分析する
- 金曜日の過ごし方(補完作業・問題解決の会話)が週末の“デタッチパターン”を決めるのか分析する
参加者とデータ数
- 153名の会社員(ドイツ)
- 最大4週分のデータ(合計421週末)
参加者は、
- 金・土・日の夜寝る前に「今日どれくらい仕事を忘れられたか」を回答
- 月曜の朝:疲労感・睡眠の質を回答
- 月曜の午後:仕事へのエンゲージメント(集中・努力の度合い)を回答
金曜日には以下も測定:
- 残業代わりの「補完作業」をしたか
- 仕事の悩みを“誰かと話して解決しようとしたか”(問題解決会話)
デタッチメントの分析方法(LCGA)
研究者は、得られた週末3日分×421セットのデータから、
参加者が「週末にどのような軌跡(trajectory)を描いて仕事を忘れていくか」を分類しました。
分類には、統計手法「Latent Class Growth Analysis(LCGA)」という、異なる“隠れたパターン”を抽出する方法を用いました。
結果①:週末のデタッチメントは3つのタイプに分かれる
分析の結果、3つの異なるデタッチメントパターンが抽出されました。
| タイプ | 特徴 | 割合 |
|---|---|---|
| ① 高レベル・右肩上がり型 | 金曜からよく忘れられる / 土日でさらに増加 | 49% |
| ② 中レベル・右肩上がり型 | 金曜は残るが土日で回復 / 週明け意欲最大 | 35% |
| ③ 一貫して低い型 | ずっと仕事が頭から離れない | 16% |
① 高レベル・右肩上がり型(49%)
- 金曜:すでにけっこう忘れられている
- 土曜:さらに忘れられる
- 日曜:ピーク(ただし少し下がる傾向あり)
→ 週末を「しっかり休める」タイプ
② 中レベル・右肩上がり型(35%)
- 金曜はあまり忘れられない
- 土曜・日曜にかけて忘却が進む
→ 週末後半の“回復力”が高いタイプ
※このタイプの人が週明けの仕事への意欲(エンゲージメント)が最も高かったという重要発見あり(後述)
③ 一貫して低い型(16%)
- 金曜〜日曜までずっと「仕事が頭から離れない」
→ 日本の会社員にも多い“慢性的にオンのまま”タイプ
結果②:金曜日の行動が週末のデタッチメントを左右する
研究の興味深い点は、金曜日の「仕事の終わり方」が週末の休まり方を左右していたことです。
●“問題解決の会話”をした人ほど、週末にしっかりデタッチできた
金曜日に、家族・パートナー・同僚などと
- 仕事の悩みを話す
- 解決策を見つける
- 考え方を整理する
といった会話をした場合、
→ 高レベル右肩上がり型(最も回復できるタイプ)になりやすかった。
つまり、
金曜のうちに「モヤモヤの認知的クローズ(落としどころ)」をつけると、 週末に仕事を忘れやすい
という明確な効果が確認されました。

●平均的に“補完作業”が多い人は、むしろ休まりにくい
意外にも、
- 金曜日に残務処理を片づける(unfinished tasks の補完)
- 準備作業をする
といった「補完作業」が多い人ほど、
→ 中レベル型 or 一貫して低い型になりやすい
という結果。
“やるべきことを片づける=よく休める”とは限らないのです。
研究者は、
- 作業はしても「終わらない」
- 成果が曖昧で“心理的完了感”につながらない
ケースではむしろ逆効果になる可能性を指摘しています。
結果③:週末のデタッチパターンは「月曜の疲労・睡眠」には影響しなかった
驚くべき点として、
- 月曜朝の疲労(fatigue)
- 日曜の睡眠の質(sleep impairment)
については、3つのパターン間で有意差がなかったことが報告されています。
実は最新のメタ分析でも、デタッチメントと疲労・睡眠の関係にはかなり“揺らぎ”があり、
今回の結果もその一端と言えます。
研究者は理由として、
- 仕事を考えていても、リラックスした状態なら疲労は蓄積されないケース
- 日曜夜だけで睡眠が決まるわけではない
- 月曜朝は“仕事への切り替えストレス”が影響しやすい
などを挙げています。
結果④:最も仕事に“エンゲージ(意欲的)”できたのは「中レベル右肩上がり型」
ここが実務的に最も重要なポイントです。
●月曜午後の「仕事への集中・努力(engagement)」が最も高かったのは?
→ “中レベル・右肩上がり型”の人たち
でした。
つまり、
- 金曜はあまり忘れられない
- でも土曜・日曜にかけて「だんだん休める」
というタイプが最もスムーズに“仕事モード”に戻れるのです。
反対に、
「高レベル・右肩上がり型」は意外とエンゲージメントが低かった
理由として研究者は、
- 休みすぎると“仕事への再接続(reattachment)”に時間がかかる
- 月曜の朝にやる気が出るとは限らない
という先行研究とも合致すると述べています。
結論:週末の回復は“量”より“流れ”が大事
研究のまとめ
- 週末の過ごし方には3つの軌跡がある
- 金曜日の問題解決会話が回復力を強める
- 補完作業は心理的完了感がないと逆効果
- 月曜に最も意欲的なのは中レベル右肩上がり型
- 「休む > 切る > 再接続」の流れが鍵
終わりに:休息とは“上手に切り、上手につなぐ”こと
今回の研究は、
休みの質は時間量ではなく流れの設計で決まる
という重要な示唆を与えてくれます。
- 金曜の締め方
- 土曜のピーク
- 日曜の再接続
この3つを整えることで、週末の回復力が高まり、月曜の自分が変えることが出来ます。
もっと深く学び、実践したい方へ
このコラムでご紹介したような知見を、第一線の研究者と共に深く学べる研修を開催しています。
講師は、フロー理論や心の資本など、国内外の研究者と共同研究を行ってきた矢野和男が務めます。バラバラに見える心理学的知見を、ウェルビーイングという軸で整理し直すことで、職場や組織に新たな視点が生まれます。
そして、プログラムで得た知見や参加者同士のワークショップを通じて、組織のウェルビーイングリーダーとしてのマインドセットを磨いていただきます。学びを現場へと活かし、組織内のウェルビーイング実践にご興味のある方は、ぜひ参加をご検討ください。

