日々の「没頭」はどう測る?―「フロー体験」の捉え方と働き方へのヒント

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「時間を忘れて没頭した」「気づけば業務が終わっていた」――そんな“集中ゾーン”に入ったような経験、ありますよね。心理学ではこれを「フロー体験」と呼びます。フローは、仕事のパフォーマンス向上やモチベーション維持、さらには幸福感とも深く関わっているとされ、近年では企業の研修やウェルビーイング施策にも取り入れられるようになってきました。

けれど、こんな疑問もあるのではないでしょうか。

「フローっていつ起きてるんだろう?そもそも自分はちゃんとフローに入れてるのかな?」

今回ご紹介するのは、そんな「フロー体験」を日常の中でどうやって“測る”のかを探った最新の研究です。仕事や学びの場で「もっとフローを増やしたい」と考えている人にとって、実践的なヒントが詰まっています。

出典

  • Bartholomeyczik, K., Knierim, M.T., Weinhardt, C. et al. Capturing Flow Experiences in Everyday Life: A Comparison of Recall and Momentary Measurement. J Happiness Stud 25, 66 (2024). https://doi.org/10.1007/s10902-024-00776-1

実験概要:フロー体験の「今」を測る?それとも「あとから振り返る」?

ドイツとアメリカの研究者チーム(Bartholomeyczikら, 2024)は、「フローを日常で正確に測るにはどうしたらいいのか?」という問いに答えるため、38人の大学生を対象に2週間にわたる実験を行いました。

注目したのは2つの測定方法です。

  • モーメンタリー法(momentary states)
     →「今、何をしていて、どれくらいフローを感じているか?」をリアルタイムに聞く。
  • リコール法(coverage)
     →「過去2時間の中でフロー体験はあったか?」を振り返って答えてもらう。

どちらも1日に複数回スマホの通知でアンケートを送り、合計約1500回分のフロー回答を収集しました。

結果:リアルタイム報告と振り返り報告、それぞれの違い

1. フローの強さ(intensity)には差がなかった

どちらの方法でも、フローの強さの平均値には有意な差はありませんでした。

2. フローの発生頻度(probability)は振り返りの方が高かった

「フローがあった」と答えた割合は、モーメンタリー法では約46%だったのに対し、リコール法では約66%と高くなりました。

これは、後から振り返ると「そういえばあの時は集中してたかも」と思い出しやすくなる効果(記憶バイアス)が影響している可能性があります。

3. リアルタイム報告の方が「疲れる」と感じやすい

参加者の主観的な負担感を比較したところ、モーメンタリー法は「観察されている感覚」や「集中を妨げられる感覚」が強かったと報告されました。


実務へのヒント:あなたの職場ではどちらを使うべきか?

この研究からは、職場でフロー体験を可視化したり、増やしたりするうえで次のような示唆が得られます。

✅ 短時間でのリアルな変化を知りたいなら「リアルタイム計測」

たとえば、業務中の集中度の波を捉えたい、どんなタスクで没頭できるか知りたい、といった場合には「今この瞬間」の自己報告を活用すると、変化の幅がよく見えてきます。

✅ 全体の傾向を把握したいなら「振り返り方式」

「今日は何回くらい集中したか?」「週全体ではどうだったか?」といった集計目的には、2時間おきなどに思い返してもらうリコール方式が向いています。

出典:Adobe Stock

✅ フロー測定には簡易版3問アンケートでもOK

研究では従来10問だったフロー尺度を3問に圧縮しても、信頼性や妥当性に大きな差がないことが確認されました。これは、職場での短時間アンケートやスマートウォッチでの実装にも応用できそうです。

フローは「ある/ない」だけじゃない:「強さ」も見る視点を

今回の研究では、「フローがあったかどうか」と「どれくらい強く感じたか」を分けて測ることで、より柔軟な分析が可能になることが示されました。

たとえば、

  • フローがあるけど、強さは低い → 軽く集中できているが、もっと没頭する余地がある
  • フローがないけど、強さは高い → 自覚はないが実は深く集中していた可能性がある

というように、1回の回答でも2つの視点から状況を評価できます。


まとめ:あなたの「集中ゾーン」、どう捉える?

忙しい毎日の中で、集中力の波ややる気の起伏に振り回されることもあるかもしれません。でも、日々の中でどんなときに「フロー」が訪れるのかを知ることができれば、仕事の進め方や自己管理に活かせるヒントが見つかるはずです。

今回の研究が示したのは、「測り方次第で見えるフローが変わる」ということ。そして、簡易な3問アンケートでも、自分自身の集中状態を捉えることはできるという希望です。

まずは「今日はどの瞬間に夢中になった?」と、少しだけ振り返ってみてはいかがでしょうか。

Appendix. Flow Short Scale: FKS

番号項目
1I feel just the right amount of challenge.(ちょうどよい挑戦だと感じる)
2My thoughts/activities run fluidly and smoothly.(思考や行動がスムーズに進んでいる)
3I don’t notice time passing.(時間が経つのに気づかない)
4I know what I have to do each step of the way.(次に何をすべきか明確に分かっている)
5I feel that I have everything under control.(全体をコントロールできている感覚がある)
6I am completely focused on the task at hand.(いまの活動に完全に集中している)
7I feel that time flies.(時間が飛ぶように過ぎていくと感じる)
8I feel that I am totally absorbed in what I am doing.(自分の活動に完全に没頭している)
9The right thoughts/movements occur of their own accord.(思考や動作が自然に起こる)
10I have no difficulty concentrating.(集中にまったく苦労しない)

Appendix. 簡易版3問フロー尺度(r-FKS)

番号該当FKS項目項目
6AbsorptionI am completely focused on the task at hand.(いまの活動に完全に集中している)
8AbsorptionI feel that I am totally absorbed in what I am doing.(活動に完全に没頭している)
9FluencyThe right thoughts/movements occur of their own accord.(思考や動作が自然に起こる)

もっと深く学び、実践したい方へ

このコラムでご紹介したような知見を、第一線の研究者と共に深く学べる研修を開催しています。
講師は、フロー理論や心の資本など、国内外の研究者と共同研究を行ってきた矢野和男が務めます。バラバラに見える心理学的知見を、ウェルビーイングという軸で整理し直すことで、職場や組織に新たな視点が生まれます。
そして、プログラムで得た知見や参加者同士のワークショップを通じて、組織のウェルビーイングリーダーとしてのマインドセットを磨いていただきます。学びを現場へと活かし、組織内のウェルビーイング実践にご興味のある方は、ぜひ参加をご検討ください。

この記事の執筆者

村井康太郎

(株)ハピネスプラネット

カスタマーサクセスアーキテクト

新卒でPwCコンサルティング合同会社に入社後、人事コンサルティング部門にて大手メーカーやサービス企業の人事業務改革やグローバル人事システム、ピープルアナリティクス導入プロジェクトに従事。2021年より株式会社ハピネスプラネットに参画。カスタマーサクセスの改善の他、システムやサービスの開発に奮闘中。趣味は読書とトライアスロン。