みなさんはAIチャットボット(ChatGPT等)を普段使っていますか?近年、人工知能(AI)は様々な分野でその可能性を示しており、心理学の分野でも注目されています。今回は心理評価と呼ばれる、いわゆる性格テストに関するAIチャットボットの実験を紹介します。心理評価は心理学だけでなく、ビジネスの分野でも大いに活用が期待できる分野です。
米国オーバーン大学のジンヤン・ファン氏とその研究チームは、従来の自己報告ベースの性格評価とAIの推定による性格評価の比較を行いました。
出典
- Fan, J., Sun, T., Liu, J., Zhao, T., Zhang, B., Chen, Z., Glorioso, M., & Hack, E. (2023). How well can an AI chatbot infer personality? Examining psychometric properties of machine-inferred personality scores. Journal of Applied Psychology, 108(8), 1277–1299. https://doi.org/10.1037/apl0001082
実験:AIチャットボットによる性格診断
今回の実験では、大学に在籍する1957人の学生が研究対象となりました。参加者は、事前にオンラインでビッグファイブ1に関するアンケートに回答を行い、その後AIチャットボットと20~30分ほどテキストで会話を行いました。チャットボットとの会話内容は、性格診断に基づいた質問ではなく、日常の行動や興味など一般的な話題に基づく質問に回答しました。
質問例
- 「普段、友達や家族とどのくらい時間を過ごしますか?」
- 「休日にはどんなことをするのが好きですか?」
- 「最近ハマっている趣味や活動はありますか?」
- 「学校や仕事で好きな科目やプロジェクトは何ですか?」
得られた回答結果を基に自然言語処理(NLP)でテキスト解析を行い、機械学習アルゴリズムによってビッグファイブの性格スコアを推定しました。
- 性格の特性を開放性、誠実性、外向性、協調性、神経症傾向の5つの因子から測る性格診断 ↩︎
結果:AI推定による性格評価は一定の精度で自己報告と一致する
ビッグファイブの各領域において中程度の相関が確認され、AI推定による性格評価は一定の精度で自己報告と一致することが示されました。5つの性格領域の中でも外向性と開放性は他と比べて相関が高い傾向にありました。後日実施された再テストにおいても同様の結果が得られ、一貫性と信頼性が確認されました。
一方、性格特性同士が混同されやすい傾向にあり、異なる性格特性を完全に区別するには改善の余地があることが示されました。例えば、「友達と遊びに行くのが好き」という回答からは、「外向性」と関連があるとも、「協調性」と関連があるとも評価すること出来るため、両者を区別して評価することが出来ず、混同してしまう傾向があったと言えます。
まとめ
この実験では、AIチャットボットを用いて性格を推定する新しいアプローチの有効性が示されました。
結果として、AIがテキストから推定した性格スコアは、特にビッグファイブの主要な性格領域(外向性、開放性など)において高い一貫性と信頼性を示しました。しかし、判別妥当性の点では課題が残り、AIは異なる性格特性を区別する際にまだ限界があることが明らかになりました。
AIによる性格診断アプローチのメリットとしては、まずアンケートの回答・収集にかかる負担の減少が挙げられます。会社でアンケート収集に携わった方なら、何度も回答を依頼するリマインドのメールを送った経験があるでしょう。AIチャットボットに記録が残っていれば、そうした業務から解放されるかもしれません。
また、漸進的なアプローチを行うことが出来るのもメリットとして挙げられます。例えば、外部パートナーとの協働プロジェクトでは、外向性のスコアが高い人をチームに加えることで、円滑なコミュニケーションが期待できるでしょう。また、創造的なアイデアを求めるプロジェクトには、開放性の高い人材を優先的に招待することで、効果的なフィードバックや新しい視点が得られるかもしれません。
しかし、事前に性格診断の結果が得られていることは稀です。
その際、AIチャットボットの記録が十分に残っていれば、AIチャットボットの記録を用いて性格を推定することで、より良いアプローチを行うことも可能になるでしょう。